2011年12月2日金曜日

Souvenir de Coutelas

Souvenir de Coutelas - Mariko Molia Kishi

本屋で、ロベール・クートラスというある芸術家が描いた「カルト」と呼ばれる絵カルタの板絵を見た。


私が魔除けみたいに集めてきた色んなものや、知識や、文学とか、
そんな中に必ずまだ集めるべきelementがあって、
私はいつもそれを探して色んな国や図書館や美術館や街を歩くけど、
クートラスの人生と彼をとりまく物語は、久しぶりに私の中にすっとしみとおるように入っていった。

「真に生きるため」に飢えたとしても、ただ己の芸術の為に生きようとした芸術家、
クートラスの最後の恋人で、彼の遺言により彼の作品の管理を全て任された女性
岸真理子・モリアさんの、クートラスの為の本

「クートラスの思い出 Souvenir de Coutelas」

ページを開くたびに、
凍えるように寒くて、しみわたるように孤独で美しい街の匂いがする。

これはクートラスの為の本で、それから彼女の愛の本で、
大切な大切な人の為の本だと思う。




これ以上私が言葉で書いてもむなしいだけで、
マリコさんとクートラスの、痛々しくて、刹那的で、永遠にも思える一瞬がつまった一文。
最後に引用する。

クートラスと出会ったマリコさんは、一生自分の身体の一部となるようなものと出会ったことを鮮烈に感じながら、
また同時に、パリの路地裏の片隅に二人で、少しずつ混沌のかたまりになってしまいそうになっていた。
マリコさんも心のバランスを崩し始めていたころ、
彼女の引っ越した家を見に来たクートラスの言葉が、涙が出るくらいに悲しくて、愛おしかった。


 


一緒に、ブロカ通りのアパートを見に来てくれたクートラスは、小汚いその部屋に漂う都会の破片の瘴気が耐えられなかった。
そして怒りだすと、いつもより激しい発作を起こした。
私は立ち去ることしかできなかった。
海に沈んで行く人を、ただ見つめていることしかできないことは、辛かった。


ミぜール(悲惨な貧乏)は僕だけでたくさんなんだ。
お前までがこんな所で暮らすなんて、と言った。



クートラスが恐れていたのは、二人で難船することだった。