「ニーチェのことが好きか嫌いか」居酒屋で夜ご飯を食べているとガサックが私には聞いた。
私は、「彼は嫌い」と答えると、ガサックは「わぁ!良かった!僕も嫌いなんだ!」と答えた。何故最近本屋はニーチェの著作をおしゃれでちょっとインテリな読み物として勧めるのかな、ニーチェはおしゃれな読み物なんかじゃないよ。若い男性が持っていて、ニーチェが好きなんて言うとかっこいいのかな、とガサックが言うので、私はそうだよ、と答えた。
私はマルクス先生の終末論の授業が好きすぎて4年間で3回も受講したので、ニーチェについては大変に印象に残っていた。
ニーチェはプロテスタント教会の牧師の息子として生まれたが、キリスト教が大嫌いだった。それまでの中世ヨーロッパの人々は、イタリアの芸術に代表される通り、神というものを道徳、人生の意味、絶対的社会基準としてきたが、ヨーロッパ産業革命の時代を迎えて、人々の心は宗教を離れ、より物質的な、テクノロジーや仕事、金といったものに人生の価値基準を見出すようになった(まさしく現代の日本社会)。そのような状態をさして、ニーチェは「神は死んだ」と言った。
神は死んだのだから、次は何を価値基準とするか、そこに、”超人”思想が生まれる。人類自らが全ての人間を超越したスーパーヒューマンとなることによって、死への恐怖や人生の意味といった宗教が生まれる地平をも超越し、自らが新しい神のような存在となること、ニーチェはそれを目指した。
しかしこの”超人”思想には、様々な問題がある。超人は弱気をくじき常に強者である必要があり(弱者は淘汰されるべき存在)、完全無欠な身体と精神を持ち(身体障害者、精神病患者、同性愛者は不完全な存在)、常に優れた存在でなければならなかった。この思想がムッソリーニを夢中にさせ、ヒットラーのアーリア人優性人種説に用いられた。
ニーチェはそうして、超人思想を人生の価値基準として、ひねくれた一生を送ったが、この思想の破綻はニーチェの死をもって証明される。彼自身が神という人間の存在理由を否定したことで、結果的にニーチェは超人にもなり得ず、彼は自らが何故この世界に存在するのか、何故生まれ、何故死にゆくのか、その意味を見失い、遂に狂ってしまった。
ガサックはニーチェの死因を性病だと思っていたらしいが、重篤な精神疾患により精神病院にて死を迎えた、というのが私が記憶している史実である。
私がひとしきり演説を終えると、ガサックは塩焼きの鯛の切り身を私の口に放り込んだ。そして話題は干した洗濯物を畳まなくちゃ、というところへ移った。
私は、「彼は嫌い」と答えると、ガサックは「わぁ!良かった!僕も嫌いなんだ!」と答えた。何故最近本屋はニーチェの著作をおしゃれでちょっとインテリな読み物として勧めるのかな、ニーチェはおしゃれな読み物なんかじゃないよ。若い男性が持っていて、ニーチェが好きなんて言うとかっこいいのかな、とガサックが言うので、私はそうだよ、と答えた。
私はマルクス先生の終末論の授業が好きすぎて4年間で3回も受講したので、ニーチェについては大変に印象に残っていた。
ニーチェはプロテスタント教会の牧師の息子として生まれたが、キリスト教が大嫌いだった。それまでの中世ヨーロッパの人々は、イタリアの芸術に代表される通り、神というものを道徳、人生の意味、絶対的社会基準としてきたが、ヨーロッパ産業革命の時代を迎えて、人々の心は宗教を離れ、より物質的な、テクノロジーや仕事、金といったものに人生の価値基準を見出すようになった(まさしく現代の日本社会)。そのような状態をさして、ニーチェは「神は死んだ」と言った。
神は死んだのだから、次は何を価値基準とするか、そこに、”超人”思想が生まれる。人類自らが全ての人間を超越したスーパーヒューマンとなることによって、死への恐怖や人生の意味といった宗教が生まれる地平をも超越し、自らが新しい神のような存在となること、ニーチェはそれを目指した。
しかしこの”超人”思想には、様々な問題がある。超人は弱気をくじき常に強者である必要があり(弱者は淘汰されるべき存在)、完全無欠な身体と精神を持ち(身体障害者、精神病患者、同性愛者は不完全な存在)、常に優れた存在でなければならなかった。この思想がムッソリーニを夢中にさせ、ヒットラーのアーリア人優性人種説に用いられた。
ニーチェはそうして、超人思想を人生の価値基準として、ひねくれた一生を送ったが、この思想の破綻はニーチェの死をもって証明される。彼自身が神という人間の存在理由を否定したことで、結果的にニーチェは超人にもなり得ず、彼は自らが何故この世界に存在するのか、何故生まれ、何故死にゆくのか、その意味を見失い、遂に狂ってしまった。
ガサックはニーチェの死因を性病だと思っていたらしいが、重篤な精神疾患により精神病院にて死を迎えた、というのが私が記憶している史実である。
私がひとしきり演説を終えると、ガサックは塩焼きの鯛の切り身を私の口に放り込んだ。そして話題は干した洗濯物を畳まなくちゃ、というところへ移った。
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